日日是研鑽

shigemooによる自己啓発を中心とした書評を綴ったブログです。

漸変主義とは何か?

今回は,前回の続きである。

エドマンド・バークの提唱した「保守主義」について深めていく。

回り道のアプローチと直接的なアプローチ

ジョン・ケイの思想

イギリスの経済学者であるジョン・ケイは,「想定外ーなぜ物事は思わぬところでうまくいくのか?」を著した。

この本の中で,ケイは,バークの保守思想と似た手法を「回り道」のアプローチと呼んでいる。

対して,ラディカルな抜本的改革については「直接的」なアプローチと呼んでいる。

直接的なアプローチとは,目的や目標を明確にし,その目的や目標を直接的に達成する手段をとろうとすることである。

ケイは,この直接的なアプローチを批判する

何が悪いのだろうか。

直接的なアプローチの難点

本書では,ケイの挙げた「山火事」に関する例を採用して考えている。

アメリカの国立公園管理局では,山火事による森林破壊を防ぐことを目的としている。

そこで当初は,「山火事の撲滅」を目標とし,自然発生する山火事を全て消火していたが,むしろ火事の発生数が増加する結果となった。

それは,火事によって森林の一部がなくなることで,延焼防止の役割を果たしていたためだ。

以上が,直接的なアプローチだ。

目標を達成するために,むしろ山火事を増やしてしまったという点に問題がある

次に,目標を「山火事の撲滅」から「山火事のコントロール」に変更し,自然発火による火災は放置するようガイドラインを変更した。

その後歴史上まれにみる大火災が発生し,ガイドラインは,どの火災を放置し,どの火災を消火するかを,ベテランの林務官に委ねるようになった。

これが,回り道のアプローチだ。

それではどうして,直接的なアプローチが上手くいかなかったのだろうか。

それは,森林が,人間の理性の及ばない複雑な存在だったからである

理性の及ばない複雑な存在に対して,無謀にも人間の理性で立ち向かった結果,このような事態を引き起こしたのだ。

リンドブロムの理論

チャールズ・リンドブロムは,公共政策というものは,「インクリメンタリズム(漸変主義)」というアプローチに従って決定されているし,またそうすべきであると論じた。

インクリメンタリズムとは,新しい政策を決定するにあたっては,既存の政策をベースにして,それを改善するというやり方である

漸変主義と対極にあるのは,既存の枠組みにとらわれず,ゼロベースで政策を決定するというラディカルなアプローチだ。

一見,ラディカルなアプローチの方が優れているように思えるし,また支持されやすい。

しかし,リンドブロムは,漸変主義の方が優れていると主張した。

その理由は,バークの保守主義でも出てきたように,現実社会が非常に複雑な存在であるためである。

通底する保守思想

エドマンド・バーク,ジョン・ケイ,チャールズ・リンドブロムの保守思想を検討してきたが,そこに通底するのは,「現実社会は複雑怪奇なものであり,抜本的な改革は危険である。それよりも,漸変主義的なアプローチを取ることで,確実に,堅実に改革を進めていくべきだ。また,その方が結果として,ラディカルなアプローチよりも早く社会を変えていくことができる。理由は,ラディカルなアプローチの方は利害調整等に膨大な時間がかかるためである。」という考え方である。

しかし,現代の保守思想は果たしてこのような考えに基づいているだろうか?

私には,どうも惰性で流れているようにしか思えない。

保守・改革を論じる前に,まずは元祖の思想を汲むべきではないだろうか。

まとめ

  • ジョン・ケイ,チャールズ・リンドブロムは,エドマンド・バークと同様に保守思想を論じた
  • 複雑なものに対しては,漸変主義的なアプローチが効果的である
  • 漸変主義的なアプローチの方が,より早く社会を変革できる