日日是研鑽

shigemooによる自己啓発を中心とした書評を綴ったブログです。

環境問題にどう取り組むか【ネイチャー資本主義】

今回は,夫馬賢治さんの書かれた「ネイチャー資本主義」より,なぜ環境問題が生じているのか,またどうすればよいのか,について考えていく。

本書の立場

本書は,環境問題と資本主義の関係性について考察した著作である。

資本主義について考察した本は巷間に溢れており,特に資本主義批判の書は無数にある。

これらの本は,「資本主義が諸悪の根源である」という姿勢が基本となっており,様々な問題を,資本主義という枠組みの問題に帰するというものである。

しかし,本当に資本主義が諸悪の根源なのであろうか。

確かに,現代の社会を構成しているのは資本主義であり,民主主義である。

だが,背景にあるからと言って,全ての問題が背景のせいであるとは言えない。

むしろ,それとは独立した人間の営み自体が問題を引き起こしており,資本主義の問題では必ずしもないのではないか,というのが「ネイチャー資本主義」の立場だ。

すなわち,資本主義を批判することで問題を”解決”するのではなく,問題に真正面から向き合い,真の問題を探っていくというのが本書の姿勢である。

資本主義の功罪

プラネタリー・バウンダリー

資本主義が環境破壊の原因であると考える人々の間には,共通認識がある。

以下に引用しよう。

資本主義は,強欲なので,徒に利益を追い求める。

そして,次々と不要なものを作り出し,大量生産・大量消費型の経済を作り出す。

その結果,経済による環境負荷が地球環境を維持できる限界値を超えてしまい,深刻な環境破壊を引き起こしている。

ところで,具体的には何がどのように問題なのか。

それを可視化するために生み出されたのが,「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」である。

これは,多くの環境問題を大胆に9つに分類し,それらに閾値を設定,現状がどの程度なのかをグラフで表したものだ。

これによって,なんとなく言われている環境問題が,どの分野でどの程度切羽詰まっているのかが理解できるようになった。

この図は,ストックホルム大学のヨハン・ロックストローム教授と,オーストラリア国立大学のウィル・シュテファン名誉教授によって考案された。

詳細は説明を割愛するが,プラネタリー・バウンダリーは,人間社会が産業革命以降に環境破壊を引き起こしていることを示した

資本主義が嫌いな思想家は,これを因果関係と解釈し,「産業革命(資本主義)が環境破壊を引き起こしている」と主張する。

だが,これは正確ではない。

因果関係と相関関係

プラネタリー・バウンダリーは,産業革命以降に環境負荷が限界値を超えてしまったというタイミングを示しているが,因果関係までは示していない。

つまり,統計的に相関関係があっても,因果関係は必ずしも存在しないのだ。

因果関係に迫るには,他のデータも見ていく必要がある。

実際,産業革命以降の人間社会は,他にも大きな変化を経験している。

例えば世界人口は,産業革命初期と現在では6.7倍にまで増加している。

これは,科学技術の発展によって乳幼児死亡率が激減したことにより,人口の自然増加が生じた結果だ。

本当に資本主義のせいなのか?

つまり,資本主義によってライフスタイルが変化したとはいえ,人口増加の影響も無視できないほど大きいということだ。

上記の数字によれば,産業革命前のライフスタイルを維持したとしても,基礎的サービスや食料を提供するために,単純計算して6.7倍の資源が必要となる。

さらに,ライフスタイルの変化も考慮すれば,資源消費量はさらに多くなるだろう。

このことから言えるのは,「人口増加」と「ライフスタイル」の二つの軸から見ていく必要があるということだと考えられる。

すなわち,単純にライフスタイル(資本主義)だけのせいにはできないし,一方で人口増加だけが原因でもないということだ。

どうすれば解決できるのか?

問題の因数分解

状況を解決するには,全体の資源消費量を減らす必要がある。

ここで,「全体の資源消費量=世界人口×一人当たり資源消費量」という式が成り立つ。

このうち操作できるのは,後者の「一人当たり資源消費量」しかないだろう。

それでは具体的に,どうすれば減らしていけるのだろうか。

気候変動への処方箋としてのイノベーション

気候変動の分野では,現状の分析と今後の方向性の提示を担う科学者組織である「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」というものがある。

IPCCは2022年4月,温室効果ガス削減の展望について分析した「第3作業部会報告書(WG3)」を発表し,最新の見解を示した。

それによると,以下のように述べてある。

イノベーションは,排出量の削減と排出量の増加を抑制する機会を提供し,社会面と環境面でのコベネフィット(双方の利得)を創出した。

これは,温室効果ガスの排出量を大幅に削減するための方策として,イノベーション,すなわち技術革新が寄与してきたということを示している。

例えば,再生可能エネルギーは従来の化石燃料に比較して,温室効果ガスの排出量が桁違いに少ないことが知られている。

これは電力に関するイノベーションの成果の一つだ。

さらに,第3作業部会報告書は,再生可能エネルギー普及の課題となっていたコスト面についても,次のように記述している。

2010年から2019年にかけて,太陽光発電,風力発電,リチウムイオン電池の単価が連続的に低下し,地域によって大きな差はあるが,太陽光発電で10倍以上,電気自動車で100倍以上など,それらの普及が大幅に進んだ。

では,なぜこのようなイノベーションが可能となったのか。

イノベーション政策パッケージが,コスト削減を可能にし,世界的な導入を支えてきた。

低排出技術が世界的に普及することで生じる可能性のある分配的,環境的,社会的影響を克服するために,イノベーションシステムに対処する個別政策と包括的政策の双方が役立っている。

つまり,技術の実現とコスト削減の両方のイノベーションを実現してきたのは,再生可能エネルギー設備やバッテリーの技術開発と生産を担ってきたメーカーであり,それに協力した企業であった。

そして,政府は政策として企業を後押ししてきた。

以上のことから,技術革新,すなわちイノベーションが,環境問題克服の一助となってきたことが分かる。

気候変動以外の環境問題への処方箋

それでは,気候変動以外ではどうなのか。

気候変動以外の分野でも,科学者組織が結成されている。

「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学ー政策プラットフォーム(IPBES)」である。

IPBESは,気候変動以外の残り8つ全ての環境問題(プラネタリー・バウンダリーは,気候変動を含む9つの領域から成立していた)を扱っている。

そのIPBESは2019年に「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」を発行し,現状と展望を発表した。

そこでは,問題解決のために必要な社会変革の中身として,低から中程度の人口増加,エネルギー,食料,飼料,繊維及び水の生産と消費の変革,持続可能な利用と公平な利益分配,自然に優しい気候変動適応策や緩和策の導入を挙げた

経済,社会,政治,技術の面で,これらの変革を実現できれば,社会と環境の双方の面で持続可能な未来を実現できるという。

しかし,これらの社会変革は放っておいて実現するものではないため,IPBESは実現に向けて人間社会が介入すべき5つの重要項目を特定している。

  1. インセンティブと能力構築
  2. 部門横断的な協力
  3. 先制行動
  4. 強靭性と不確実性を考慮した意思決定
  5. 環境法とその執行

の5つである。

そして,IPBESも,IPCCと同様に,イノベーションと企業の役割を重視している。

実現可能なのか?

それでは,上記に挙げた方法で,問題は解決可能なのだろうか。

問題解決に対しては,以下のような声が上がると考えられる。

「経済発展と環境保護は両立するのだろうか。

否,相反する存在なのではなかろうか」と。

従来は,経済発展を成し遂げた一方で,環境破壊を伴った。

すなわち,片方がプラスになればもう片方はマイナスになるという考え方だ。

ここで著者は,「デカップリング」について述べている。

デカップリングとは,環境問題と経済発展を別々に捉えるというものだ。

それでは,果たしてこれは可能なのか。

著者は,可能であるという。

さらに,実例が確認されているともいう。

図は割愛するが,環境フットプリントが低下する一方で,GDPが増加する「絶対的デカップリング」が2010年から2019年の間に見て取れる。

すなわち,デカップリングは実現可能なのだ。

このことから,上記に挙げた問題解決の手法も,実現可能であるということが分かる。

まとめ

  • 資本主義だけが悪いのではない
  • プラネタリー・バウンダリーは,産業革命以降に環境破壊が生じていることを示した
  • 因果関係と相関関係を取り違えてはいけない
  • 環境問題は,人口増加とライフスタイルの二つの軸から捉える必要がある
  • イノベーションが環境問題克服の鍵となる
  • 企業が主導し,政府は政策でカバーするべきである
  • 絶対的デカップリングは可能であり,したがって環境問題解決にも可能性がある